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顧客管理

コラム:金融機関が保有する顧客データは”宝の山”(第3話)

2021年6月3日 99 Views

【第3話 資金ニーズはどのように推測できるのか】

コラム:金融機関が保有する顧客データは”宝の山”(第1話)

コラム:金融機関が保有する顧客データは”宝の山”(第2話)

まずは簡単に想像してみる

難しく考えず、先ずは簡単に想像してみたいと思います。

(凡例①)
20代の男性、流動性平残に常に余裕がなく、頻繁に入金と出金を繰り返している。定期預金は保有していない。
生活資金に余裕がなく、日々のキャッシュフローが厳しいのではと想像できます。

(凡例②)
40代の既婚の男性、定期預金が200万円程度、流動性平残は20万円程度で毎月安定している。ただ住宅ローンの毎月の返済が給与振込額の30%を占め、高校と中学に通う2人の子供がいる。
生活資金の余裕は多くはなく、今後も子供の進学に伴い教育資金やリフォームのための資金が必要ではないかと想像できます。

(凡例③)
50代後半の既婚の男性、定期預金が1000万円程度、流動性平残は30万円程度で安定しており、住宅ローンは完済している。
間もなく定年を迎える壮年先であり、キャッシュフローにも余裕がある。
将来に向けた資産形成や資金の有効な使い方を考えているのではないかと想像できます。

凡例を3つ示してみましたが、なんとなく普通に想像できる顧客像ではないかと思います。
ではどのようなデータを観察しているのか?実は観ている情報量は決して多くはありません。

3例とも基本情報は年齢と性別です。

それに加え、流動性平残の水準の動き、入出金のキャッシュフロー、定期預金の保有状況、住宅ローンの有無と4つの口座取引データを観察しています。
凡例②では住宅ローン取組時に入手した扶養家族の情報を利用しています。

資金ニーズ推測の流れ

個々のライフステージやライフサイクル・ライフイベントなど、顧客像やペルソナを創り上げることが目的ではありません。
マーケティング的にはペルソナによる顧客像の分析の必要性ではあると思いますが一旦脇に除けて考えてみたいと思います。
ここでは個々の顧客が今現在どのような金融商品を望んでおり、どのような資金ニーズを持っているのか、これを推測することを目的にお話しを進めさせていただきます。

1,観察したい資金ニーズの目標設定

先ず観察したい資金ニーズの目標を何に設定するかです。

(目標:資産形成商品のニーズを推測したい)

どの顧客に、どのような資産形成の商品をご案内すればヒットできるのか。
資産形成商品といっても、定期性預金のようにローリスク&ローリターンの商品から、為替変動のある外貨預金や、株式や債権相場と連動する投資信託など様々です。

また顧客によっても資産形成の考え方は様々です。

定期性預金のようにローリターンではあるがローリスクのニーズが強い顧客、外貨預金や投信信託のようにある程度のリスクは覚悟の上でリターンを望む顧客、いくつかの志向に分類し目標を定め先ずは考えてみてはどうでしょうか。
またお勧めしたい資産形成商品のご案内という形で、資産形成ニーズを推測するといった方法をとることもベターかもしれません。

(目標:ローン商品のニーズを推測したい)

どの顧客に、どのようなローン商品をご案内すればヒットできるのか。

ローンの場合は少し工夫が必要です。
個々の顧客のライフステージやライフサイクル・ライフイベントは様々で、どの顧客にどのようなローンニーズが発生しているのかも様々です。

オートローンや教育ローンをご案内すべき顧客なのかどうか、フリーローンやカードローンをご案内すべき顧客なのかどうか、ご案内したいローン商品毎に資金ニーズを推測するといった方法が最適です。
つまりご案内したい商品や資金ニーズを軸に先ずは考えれば良いわけです。

2,ニーズを推測するためのデータ分析

推測したい資金ニーズの目標が決まったら、そのニーズを推測するためのデータ分析です。

過去の実績データから、推測の対象となる商品を契約した先と契約をしていない先から、分析対象のデータを抽出します。
対象の商品を契約した先をON、未契約の先をOFFとし、推測するニーズの基準変数とします。
説明変数は第2話でお話しした口座の取引データと属性データです。
この説明変数によって数学的な分析が施され、目的のニーズを確率値としてアウトプットすることができるモデルを構築することができます。

資産形成商品のニーズ確率を推測するモデルでは、ローリターン/ローリスク商品のニーズ確率を推測するモデル、ハイリスクではあるが高金利が期待できる商品のニーズ確率を推測するモデル、外貨預金商品のニーズ確率を推測するモデル、といった感じです。

ローンニーズを推測するモデルでは、先ほど述べましたがローンの目的に分けて基準変数を整理することが大事です。
目的型のローンでは、オートローンのニーズ確率を推測するモデル、教育ローンのニーズ確率を推測するモデルを検討し、非目的型のフリーローンやカードローンのニーズを推測するモデルなど、ローンニーズ毎に分析することで、より精度の高いモデルが構築できることになります。

大事な信用リスク

一つ大事なことがあります。
ローン商品の場合、信用リスクも同時に推測しておいた方が良いということです。

顧客にローン商品のご案内し、申込頂いたにも関わらず、応諾を出せないということは極力避けたいです。
それを回避させるために、「もしこの顧客に与信を実行したら」とう仮説に基づいて、信用リスクも同時に推測した上で顧客にローンのご案内を行うということです。
つまり一定のニーズ確率以上の対象先から、一定の信用リスク確率以下の顧客に対し、ご案内の対象にするということです。

また既に何らかのローンを実行している顧客では、ローンの利用や返済状況といった履歴情報が取得できます。
入出金履歴や決済履歴などの口座取引情報に加え、ローンの利用や返済履歴の情報を説明変数に追加することができます。
これらの口座取引の動的な情報を観察することから、信用リスク評価の動態モデルとして構築することができます。
この動態モデルを個人貸付の信用格付モデルとして実装し、運用している金融機関が増えてきています。
また動態モデルを利用し、他のローンのクロスセルやランクアップ・アップセルに活用し、信用コストを抑えながらも更なる融資拡大に向けた様々な施策に有効に活用できることも実証されています。

まとめ

金融機関が持つ顧客データを、ちょっとした工夫とアレンジを施すことで、とても有効に働くことができる知能(AI)に生まれ変わることができるのです。

では顧客データはどこにあって、どのように利活用できるのか?
第4話では、その方法についてお話しさせて頂きます。